はじめに
肩甲骨は腕を動かすための要となる骨です。そして背中の肩下で肋骨上に天使の羽のようにくっ付いている骨になります。
この肩甲骨と関節で接しているのは実は鎖骨だけなのです。残りは周りにある筋肉によって肩甲骨は支えられているため、肩甲骨はとても不安定となりやすい部位といえます。
これは言い換えると肩甲骨はとても柔軟かつ自由に動くことのできる骨ともいえます。
しかし、肩甲骨は首や肩周りで問題が起こると顕著に可動域に問題が生じやすい部位でもあります。
そこで、私がよく肩甲骨の動きに問題がある方に対して身体を評価するときに一度確認するのが背中で握手ができるのかという点です。
そしてこの『背中握手』ができない場合、肩や肩甲骨周りに何か問題が生じている可能性があります。
そこで今回はこの肩甲骨にどのような動きがあるのか、そして背中握手ができないのはなぜなのか、その原因についてお伝えしたいと思います。
肩甲骨の動き
挙上
肩甲骨が上側に動くことを指します。主に肩を上にあげるときなどにこの動きが伴います。
下制
肩甲骨が下側に動くことを指します。主に肩を下に下げるときなどにこの動きが伴います。
外転
肩甲骨が外側に動くことを指します。主に腕を前に伸ばす時などにこの動きが伴います。
内転
肩甲骨が内側に動くことを指します。主に腕を後ろに引く時などにこの動きが伴います。
上方回旋
肩甲骨が上方へ向かって回っていくことを指します。主に腕を下から上に挙げるときなどにこの動きが伴います。
下方回旋
肩甲骨が下方へ向かって回っていくことを指します。主に腕を上から下に下げるときなどにこの動きが伴います。
肩甲骨の動きに作用する筋肉
肩甲骨挙上
僧帽筋上部
肩甲挙筋
大菱形筋
小菱形筋
肩甲骨下制
僧帽筋下部線維
前鋸筋
肩甲骨外転
前鋸筋
肩甲骨内転
僧帽筋上部線維
僧帽筋中部線維
僧帽筋下部線維
大菱形筋
小菱形筋
肩甲骨上方回旋
僧帽筋上部線維
僧帽筋下部線維
前鋸筋
肩甲骨下方回旋
肩甲挙筋
大菱形筋
小菱形筋
肩甲骨の硬くなりやすい状態
私が普段仕事をしていて患者さんの肩甲骨をみるときに感じるのが、肩甲骨が硬くなっている人は外転の状態の方が多いということです。
肩甲骨が外転するのはどのような状態かというと前かがみで猫背の姿勢の方が主に肩甲骨が外転しています。
外転の状態になることで前鋸筋や小胸筋が短縮し、背中で肩甲骨を覆っている僧帽筋上部や肩甲挙筋が外側へ引っ張られてしまいます。
肩甲骨の可動域が低下することで肩の動きは著しく低下します。そのようなことでお困りの方はぜひごちらの記事もご覧ください。
手が後ろで掴めますか
背中握手の動きをすることによって以下の動きを確認することができます。
下側の手の肩甲骨は下制、下方回旋
上側の手の肩甲骨は挙上、上方回旋
2023年12月31日追記
背中握手がしっかりとできる人は上記の肩甲骨の動きがしっかりと出ているという評価にもなります。しかし、この背中握手をする際に肩甲骨の動きに制限が生じると肩関節に過剰なストレスがかかり痛みや障害を生じる可能性が高まります。
そのため、今から背中握手をする際に生じやすいエラーについて説明していきたいと思います。
下側の手を腰に回す際肩があがっていないか
下側の手を腰に回した際に肩があがっている方は肩甲骨の下制が苦手な可能性があります。
僧帽筋や肩甲挙筋が硬くないかチェックしてみましょう。
下側の手を腰に回す際肩が前に突き出していないか
下側の手を腰に回した際に肩が前に突き出してしまう方は肩甲骨の内転や下方回旋が苦手な可能性があります。
肩が前に突き出してしまうときは前胸部(大胸筋・小胸筋)の硬さや肩甲骨を内側に引きつける力が低下してしまっている可能性があります。
2023年12月31日追記
またこのように肩が前にでてしまう場合は鎖骨の上方回旋も制限されている可能性があります。肩甲骨の動きを一緒に鎖骨の動きも意識してみると良いと思います。
上側の手を背中に回す際首周りがきつくないか
上側の手を背中に回した際に首まわりがきつくなる方は首や肩周りの筋肉が硬くなっている可能性があります。
このような方は普段から肩が上がり首が縮こまっている場合が多いです。僧帽筋上部や肩甲挙筋、三角筋などの硬さがないかチェックしましょう。
上側の手を背中に回す際肩の上がりが不十分
上側の手を背中に回す時に肩が上にしっかりあがっていないか方は肩甲骨の上方回旋がうまくできていない可能性があります。
普段から肩が下がり、なで肩のような方が比較的多いと思います。前鋸筋や僧帽筋上部の筋力が弱い可能性があります。
今回は肩甲骨の動きに注目していますが、それ以外にも肩関節や胸郭といった部位の硬さも肩甲骨の動きに影響しますので、今回説明したものが全ての症状に合うわけではないことをご理解ください。
腕を伸ばした状態で肩甲骨が動かせますか
手を組み腕を前に伸ばした状態で肩を前に引き出したり後ろに引いたりすることで肩甲骨の外転、内転をみることができます。
動作中に肩があがる
この動作中に肩が上がる方は肩甲骨の内外転がうまくおきておらず、肩甲骨の挙上が先行して起きてしまっている可能性があります。
このような方は首や肩周りの筋肉が硬くなっている可能性があります。
動作中に肘が曲がる
この動作中に肘が曲がってしまう方は肩甲骨の可動域が低下している可能性があります。肩甲骨周囲の柔軟性を引き出す必要があります。
肩甲骨をほぐすエクササイズ
肩が前に出てしまう場合
胸の前が硬くなっているため、大胸筋や小胸筋をストレッチしましょう。手を壁についた状態で胸を張ることで前胸部を伸ばすことができます。
腕の角度をかえることで前胸部をまんべんなく伸ばすことができます。
首周りが硬い場合
首や肩周りの筋肉が硬くなっている可能性がありますので、そのようなときは僧帽筋上部線維・肩甲挙筋のストレッチを行いましょう。
片手を床につき、もう片方の手は側頭部に触れます。床にある手は下方向へ押し、側頭部の手は反対側へ頭を倒すように誘導することで僧帽筋上部線維をストレッチすることができます。
僧帽筋上部を伸ばしている状態で目線をやや斜め下に向け、頭を少し前屈することで肩甲挙筋をストレッチすることができます。
首周りが硬いという方は僧帽筋の緊張が高い可能性が高いです。そのようなことでお困りの方はぜひこちらの記事もご覧ください。
猫背になるときは
猫背になり肩甲骨が外転しているときは胸を張って肩甲骨を身体の真ん中に寄せてみましょう。
また肩甲骨の下制も同時に行えるように組んだ状態で手を下方へ引っ張るように力を入れことで肩甲骨を内転・下制方向へと誘導することができます。
肩甲骨周りが弱い方は
肩甲骨の安定性が弱い方は四つ這いや腕立て伏せの姿勢になるのが効果的です。このとき手でしっかりと床を押すようにイメージします。
図のように背中が一直線になることで肩甲骨周りの筋肉がはたらきやすくなり、肩甲骨の安定性が高まりやすくなります。
この四つ這いという姿勢を利用していろいろな運動をすることで肩甲骨の安定性を高めることができます。
手で身体を支えながら行うエクササイズの中でよく肩甲骨に効くのがマウンテンクライマーになります。無理のない範囲でぜひ試してみてください。
最後に
皆さんいかがでしたか。普段から肩甲骨を意識することはほとんどないと思います。肩甲骨は肋骨の上に張り付くように接しています。そして肩甲骨の動きは筋肉の動きに依存します。
そのため、姿勢が崩れ背中の筋肉が硬くなることで容易に肩甲骨の動きは制限されてしまいます。肩甲骨の動きが悪くなると肩や背骨の動きにも影響を与え、さまざまな不調をきたしやすくなります。
今回の記事を読んで肩甲骨の動きを少しでも理解していただき、普段の生活の中で肩甲骨に意識を向ける時間が増えたら幸いです。
本日もご覧いただき、ありがとうございました。
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