はじめに
「産後から手がしびれるようになった」
「赤ちゃんを抱っこすると手がジンジンする」
「朝起きると手がしびれている」
産後には、このような手のしびれを経験する方が少なくありません。

妊娠・出産期には、身体の変化やむくみなどによって手首周辺の神経に負担がかかり、手根管症候群によるしびれが起こることがあります。実際に、日本整形外科学会でも、手根管症候群は妊娠・出産期の女性に生じることがあるとされています。
一方で、
「産後だから手根管症候群だろう」
と自己判断するのは注意が必要です。
しびれている場所によっては、手根管症候群とは異なる神経の障害が考えられるからです。
今回は、産後の手のしびれについて、
- 小指側がしびれる
- 握力が低下している
- しびれが徐々に強くなっている
- 産後しばらく経っても改善しない
といった場合に注意したいポイントについて、理学療法士・ピラティスインストラクターの視点から解説します。
産後の手のしびれで多い「手根管症候群」
まず知っておきたいのが「手根管症候群」です。
手首には「手根管」というトンネル状の構造があり、その中を正中神経が通っています。
この正中神経が手根管の中で圧迫されることで、手のしびれや痛みが起こります。
典型的には、
- 親指
- 人差し指
- 中指
- 薬指の親指側
にしびれが出ます。

特に夜間や明け方に症状が強くなったり、手を振ったり指を動かしたりすると一時的に楽になることがあります。症状が進行すると、親指の付け根にある「母指球」の筋力低下や筋萎縮が起こり、細かいものをつまみにくくなったり、物を落としやすくなったりすることがあります。
妊娠・出産期は手根管症候群が起こりやすい時期の一つです。
産後はむくみなどが改善することで、数か月程度で自然に症状が軽くなるケースもあります。
しかし、すべての「産後の手のしびれ」が手根管症候群とは限りません。
ここが重要なポイントです。
こちらの記事に正中神経についてのセルフケアについて詳しくまとめていますのでぜひあわせてご覧ください。
小指側がしびれる場合は要注意
例えば、
「小指と薬指の小指側がしびれる」
という場合。
このような症状では、手根管症候群とは異なり、尺骨神経の障害が考えられます。
日本整形外科学会では、小指と薬指の小指側にしびれがある場合、尺骨神経の障害である「肘部管症候群」が疑われるとしています。

肘部管症候群は、肘の内側を通る尺骨神経が圧迫されることで起こります。
尺骨神経は小指や薬指の一部の感覚だけでなく、手の細かな動きに関係する筋肉にも関わっています。
そのため、症状が進行すると、
- 小指・薬指のしびれ
- 手の握力低下
- 細かい作業がしにくい
- 物を落としやすい
- 指を開いたり閉じたりしにくい
などがみられることがあります。
そのため、
「小指側がしびれるから、産後の手根管症候群だろう」
と決めつけないことが大切です。

こちらの記事に尺骨神経麻痺について詳しくまとめていますので、ぜひあわせてご覧ください。
「握力が落ちた」は見逃さない
産後の手のしびれで、もう一つ注意したいのが筋力低下です。
単純に「少しジンジンする」というだけではなく、
「ペットボトルのふたが開けにくくなった」
「子どもを抱っこしていると手から力が抜ける」
「物を落とすようになった」
「以前より明らかに握力が弱い」
という場合には、神経の圧迫や障害が進行している可能性があります。
手根管症候群でも、進行すると母指球筋の筋力低下や筋萎縮が起こることがあります。
また、尺骨神経の障害でも手の筋力低下が起こることがあります。
そのため、しびれ+明らかな筋力低下がある場合は、単純なストレッチやピラティスだけで長期間様子を見ることはおすすめできません。
しびれがどんどん強くなっている場合
もう一つの注意点が、
「最初は少しだったのに、徐々にしびれが強くなってきた」
というケースです。
神経の圧迫が続くことで、症状が進行する場合があります。
特に、
- しびれる範囲が広がっている
- しびれる時間が長くなっている
- 夜間に目が覚めるようになった
- 握力が低下してきた
- 手の筋肉が痩せてきた
- 細かい動作が難しくなってきた
といった変化がある場合は、一度整形外科などで評価を受けることが大切です。
日本整形外科学会も、一過性ではない上肢のしびれについては整形外科への相談を勧めています。
「産後だから、そのうち治る」と放置しない
産後の手のしびれは、時間の経過とともに自然に改善することもあります。
しかし、
「産後だから大丈夫」
と長期間放置してしまうのはおすすめできません。
特に神経の圧迫が強く、筋力低下や筋萎縮まで起こしている場合には、早めの評価が重要になります。
手根管症候群では、症状が進行すると母指球筋が萎縮し、つまむ動作などにも影響することがあります。
また、長期間神経の障害が続くと、治療を行っても神経機能の回復に時間がかかる場合があります。
「いつか治るかも」と我慢し続けるのではなく、症状の経過を見ることが大切です。
首が原因で手がしびれることも
手のしびれがある場合には、手首や肘だけではなく、首の神経が関係しているケースもあります。
例えば、
- 首や肩の痛みを伴う
- 首を動かすと腕や手のしびれが変化する
- 前腕や上腕までしびれる
- 手だけでなく腕全体に症状がある
- 両手に症状がある
といった場合には、頚椎や神経の状態も確認する必要があります。
日本整形外科学会でも、手背・前腕・上腕までしびれる場合や両手がしびれる場合には、頚椎疾患などが原因となる可能性があるとしています。
産後の手のしびれで受診を考えたいサイン
以下のような症状がある場合は、ピラティスやセルフケアだけで長期間様子を見ず、医療機関への相談をおすすめします。
① 小指側のしびれ
小指・薬指の小指側にしびれがある場合、尺骨神経の障害などを考える必要があります。
② 握力が明らかに低下している
以前できていた動作ができなくなった場合は注意が必要です。
③ 物を落とすようになった
神経障害による筋力低下が隠れている可能性があります。
④ 手の筋肉が痩せてきた
母指球などの筋萎縮が見られる場合は、早めの評価が必要です。
⑤ しびれが徐々に悪化している
しびれる頻度や範囲が増えている場合は、一度原因を確認しましょう。
⑥ 産後かなり時間が経っても改善しない
産後数か月経っても症状が続く場合や、症状が悪化している場合は、自己判断で放置しないことが大切です。
ピラティスをする場合も「症状の確認」が大切
産後の手のしびれに対して、ピラティスを取り入れること自体が悪いわけではありません。
ただし、
「しびれているから、とりあえず手首をストレッチする」
という考え方には注意が必要です。
神経の圧迫部位によっては、手首だけでなく、
- 頚部
- 胸郭
- 肩甲帯
- 肘
- 前腕
- 手関節
などを含めて身体全体を評価する必要があります。
また、神経症状が強い場合には、神経を強く伸ばすようなストレッチによって症状が悪化することもあります。
そのため、ピラティスでは「しびれを我慢して運動する」のではなく、症状の変化を確認しながら無理のない範囲で行うことが重要です。
まとめ
産後の手のしびれは、妊娠・出産に伴う身体の変化によって起こることがあります。
代表的なものの一つが手根管症候群ですが、
小指側のしびれ=尺骨神経の障害
など、症状の場所によって疑われる原因が異なる場合があります。
また、
「握力が落ちた」 「物を落とすようになった」 「しびれが強くなっている」 「筋肉が痩せてきた」 「産後しばらく経っても改善しない」
という場合には、単純な産後の一時的な症状として片付けないことが大切です。
ピラティスを行う場合も、まずは現在の症状を確認し、必要に応じて医療機関で評価を受けたうえで、安全に身体を動かしていきましょう。
